松本健太郎氏の「人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学」を読みました。
話題のデータサイエンティストが解き明かした、大ヒット&大ブームの「悪魔の法則」…人間の50%はクズである!「キレイごと」より「本音トーク」がウケる理由、「メガ盛り」が食べたいのに「サラダ」が欲しいと嘘をつく心理、人々を新型コロナ論争に駆り立てるバイアス…。「つい、買わされてしまう…」禁断のテクニックを解説!
Amazonより引用
人間の50%はクズ?不合理な行動を取ることもあるよね
本書は、世の中でヒットした商品や話題になった出来事を「マーケティング理論 × 行動経済学 × データサイエンス」の組み合わせで、人の心の奥に潜む「悪魔的な欲望」がどのようにその商品や事象に影響を与えたのかを解明していくというもの。
以前こちらのブログにも書いたのですが、行動経済学とは、”人間は高度で合理的である”ことを前提とする経済学のアプローチは不完全であり、人間は常に合理的な行動を取るとは限らず、不合理な行動を取ることもあるという、心理学を応用し、より現実に即して経済を研究する学問です。行動経済学について、ダニエル・カーネマン氏は以下のように述べています。
「従来の経済学では、人間は高度に合理的、あるいは超合理的であり、無感情な存在だと想定されてきた。人はコンピュータのように計算することができ、自己コントロールに関する問題など全くない、というわけだ」
– Wikipediaより
平たく表現すると、「人間って賢い判断をするように思われているけど、それって違くない?自分をコントロールできずに衝動買いもするし、数字にも騙されるよね?」ということです。意思決定にバイアスがかかってしまうのが当然で、100%合理的に判断して、行動にうつせる人なんていないのです。
例えば
- 5,000円の服を買うときは500円の割引額が気になるのに、20万円のドラム式洗濯機を購入するときは1,000円の差も気にならない(感応度逓減性)
- 売上も立たず引き際に来ているのに、1,000万円投資して構築したサービスだから、そろそろユーザーが増えるはずと信じ、サービスの提供を継続してしまう(サンク・コスト効果)
- 買うつもりがなかったのに試着や試食をしたら購入したくなった(保有効果)
などが例です。
行動経済学の本を読むと、上述のような「人間は不合理な判断もするよ」という結論とともに、海外の社会的実験やナッジ事例が紹介されることが多く自分の実生活と繋がらずに、どうも実感しにくいなと思っていたのですが、本書は日本のマーケティング事例で紹介されているのでとても理解しやすい内容になっています。
取り上げられているネタを一部抜粋
- マクドナルドのサラダマックは売れずに、なぜクォーターパウンダーは売れたのか
- ホテルのバイキングでは「もっと食べたい」「元を取ろう」と思うのか
- なぜ意識高い系は揶揄され、NewsPicksを利用するのか
など。どれも言われてみれば、確かに何故だろうと思う事象ばかりです。
人間は不合理である=人間は煩悩だらけ、という発想
本書の分析の中でもとても興味深いなと思ったのが、「煩悩」や「波羅蜜」といった仏教観点の考察が含まれていること。まさかマーケティング系の本で仏教用語に出会うとは思いませんでした。「煩悩は108個あるらしい」くらいしか知識がない私ですが、煩悩には「貪・瞋・慢・無明・見・疑」の6つの代表格的な煩悩があるそうです。また、仏教で悟りに至るための修行徳目「波羅蜜」にも「布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧」という六波羅蜜が存在するそうで、本書ではこの6つの根本煩悩と六波羅蜜に関連するように6章立てになっています。そこに「花咲かじいさん」や「笠地蔵」、「浦島太郎」といった日本人なら誰でも知っているであろう昔話と紐付けられており、内容自体が日本人の根底にある思想と合致して、腹落ちしやすい内容になっているなと感じました。
「人間は悪魔に熱狂する」を前提としたプロダクトづくり
私は普段Webサービスのプロダクトマネージャーとして働いているのですが、「人間は悪魔に熱狂する」という観点はマーケターだけでなく、エンジニアやデザイナーといったプロダクトづくりをする人全員が、頭の片隅に常に置いておくべきものではないでしょうか。プロダクトを開発する場合、「”論理的に”判断すると、このように行動するはずだ」といった発想で設計をしまいがちですが、ユーザーが実際にそのように行動しない場合もしばしば。プロダクトを作るときに、いち早くMVPを作ったり、プロトタイプをステークホルダーやユーザーに触ってもらうことが大事だと言われますが、このような「開発者側の認知バイアス」と「ユーザー側の認知バイアス」によるずれを最小限に留める効果も期待されるのでしょう。行動経済学には様々な効果・法則・理論があるのですが、さらに意識し、活用できるように、そしてやはり行動経済学は面白い学問だなと改めて思いました。
おまけ)印象的だった「M-1グランプリ」「ミルクボーイネタ」のnote記事
さて、本についての感想はここまでで、私が著者の松本氏を知ったきっかけの記事をご紹介します。
松本さんと言えば、あの「M-1グランプリ 2019」直前に、2018年の採点が偏っていたのではないか問題に対して、数値と分析と認知心理学的観点から切り込んだ記事『2019年M-1直前に振り返る「上沼恵美子さん採点偏ってる問題」の本質は視聴者の「認知バイアス」だ』を、
さらにM-1グランプリ当日には、怒涛のスピードで速報レポート『個人的に過去最高回だったM1グランプリ2019を数枚のグラフで振り返る』の記事を書かれた方です。本書でもM-1グランプリの採点問題について考察されています。
また、ミルクボーイの漫才ネタにP&Gマフィアを当てはめた『ミルクボーイ漫才「P&Gマフィア」』もSNS上でシェアされてバズっていたので、記憶に残っている人も多いはずです。
note以外にも他の媒体でも執筆されていたり、多数の著者も出版されています。読者が興味を持ちそうなテーマを切り口としデータを分析して、解説する記事はとても読みやすく、ついつい最後まで読んでしまいます。