ちょっとの工夫でMVP投票率が向上!行動経済学のナッジについて考えてみた

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投票って大事!だけど正直めんどう

企業に勤めていると色々なイベントがありますよね。このタイトルにもあるMVP制度もその一つではないでしょうか。私は前職でも現職でもあったので一般的なのでしょうか。こういった投票系の制度で一番困るのは投票率の伸び悩みと投票者の偏り。わざわざMVP投票というチームメンバー同士がお互いについて考える機会を設けても、偏りがあれば意図した効果を発揮できません。私が所属しているplaygroundでも以前はGoogleフォームでの投票で、投票自体が形骸化され投票率は低い状況でしたが、あるちょっとした工夫で投票率が上がりました。

投票率向上の秘訣は?Web投票から投票用紙に変えた!

では、どういう工夫を施したのか。とても単純です。投票手段を効率的と思われるWeb投票から、手間がかかり旧来的な手法とも思える投票用紙での投票にしただけです。ITベンチャー企業なのに古風にしてしまいました。
※今月3月も投票月に該当しますが、現在リモートワーク推奨期間なのでWeb投票に変更しています。

投票率が低い原因の仮説

  • Web投票だと手元に何もないので忘れやすい?
  • いつも働くスタッフなので熟考してから投票したいと考える?
  • 結果、後回しになり忘れる?
  • Web投票だと気軽に感じてしまう?

という仮説を受けて、誕生したのがこちらの投票用紙

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改善点

  • まずは手元に残る紙の投票用紙に変更→忘れない
  • 投票箱はタイムカードリーダーの隣に→嫌でも視界に入る
  • 白いデスク上で目立つ様に赤い線が入った投票用紙に→誰が入れていないかすぐ分かる・焦燥感の情勢
  • 投票の頻度を月一から四半期に一度に変更→形骸化防止
  • 投票の呼びかけを私ではなくインターン生にしてもらう→より協力したくなる

果たして投票率は上がったのか?

私が担当になってから投票は3回ほど実施しましたが、投票率は以前と比較して劇的に向上しほぼ100%に。インセンティブを付与したとか、そんな大それたことはやっておらず、投票用紙に変更しただけです。びっくりしますよね。

強制的ではなく自発的に動いてもらいたい。行動をひじで突っつく「ナッジ」と似ている?

皆さんはナッジという言葉を聞いたことがありますか。UXデザインやサービス設計する人はご存知の方も多いと思いますが、行動経済学で使われる用語です。「ナッジ」とは人に行動を強制させるのではなく、ひじでツンツンと突っついて自発的に行動を促す仕掛け・手法のことを言います。私のイメージでは、選択しようとしている人間に対して、隣にいる透明人間が「あ、こっちのほうが良いんじゃない?こういう行動がした方が良いんじゃない?」とひじでツンツンする、そんな感じです。ナッジで重要な点は誤った選択を排除せずに、選ぶ余地は残すことらしいです。今回の投票はまさしく強制的ではなく、自発的にしてもらいたい行動。上述の投票率改善後に「そういえば、今回の実績は本で学んだ行動経済学の”ナッジ”なのでは?」と思い立ち、改めてナッジについて調べてみました(専門家ではないので間違っていたらすみません)。

行動経済学のナッジとは

行動経済学は、”人間は高度で合理的である”ことを前提とする経済学のアプローチは不完全であり、人間は常に合理的な行動を取るとは限らず、不合理な行動を取ることもあるという、心理学を応用してより現実に即して経済を研究する学問です。

2002年にダニエル・カーネマンが、2017年にリチャード・セイラーがノーベル経済学賞を受賞したので、聞いたことがある人も多いはず。

セイラー教授はこう言っています。

「従来の経済学では、人間は高度に合理的、あるいは超合理的であり、無感情な存在だと想定されてきた。人はコンピュータのように計算することができ、自己コントロールに関する問題など全くない、というわけだ」
– Wikipediaより

ダニエル・カーネマン氏は「ファスト&スロー」という本のタイトルを聞けば「あー!」と思う方も多いのではないでしょうか。

行動経済学はどの職業の人でも勉強になると思うので、ぜひ読んでみてください!セイラー教授のこちらの本も有名ですよね。

セイラー教授は詩人の相田みつをさんが好きだそうで、そのネットの記事を読んでからとても親近感がわきました。セイラー教授のインタビュー記事はネット上に色々と掲載されており、どれも興味深いです。

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00005/011700003/


ナッジの事例

ナッジで有名なのは、男性用の便器に蝿のイラストをプリントして、このプリントのお陰でトイレの床の清掃費用が低減したという事例です。「トイレはきれいに」といった張り紙を貼らずして、人間の本能を活かした施策ですね。

さらにもう一つ、今回のために投票・選挙活動にナッジを応用した事例を調べてみて面白いと思ったものをご紹介します。

とある政党が、選挙活動中に政党が差出人を書かずに投票者に対して「前回の選挙では投票してくれてありがとう。今回も投票よろしくね」といった内容の手紙を送ったそうです。すると、投票者は差出人(政党)の記載がないのに、前回投票した政党からの手紙だと思い込んで、今回の選挙でも前回と同じ政党に投票する傾向が高かったそうです。これは人間の思い込みや頼られると嬉しい、といった心理をうまく活用している事例だなと思いました。

調べてみると日本にも「日本版ナッジ・ユニット(BEST:Behavioral Sciences Team)」という取り組みがあり、「ベストナッジ賞」を募集していて事例等を見ることができます。

平成30年 ベストナッジ賞(いずれも環境大臣賞)
・ プロジェクト: 大腸がん検診受診行動促進プロジェクト
・ プロジェクト:犬のフン害撲滅パトロール「イエローチョーク作戦」

ナッジの最大の利点とは

私の考えるナッジの最大の利点とは、ユーザー本人が「自分でその行動を選択した意識が強い」という点です。これはサービス設計ではとても重要な観点ではないでしょうか。UXデザインはまだまだ勉強中ですが、「人間は必ずしも合理的な判断をするわけではない」という行動経済学の視点も持ちつつ、プロダクトに反映できればと思いました。

この記事を書いた人

Riliのアバター Rili プロダクトマネージャー

都内在住の30代女性・IT企業勤務。サービスを作ることが好きなリモートワーカー。「人生はグラデーション」を掲げ、自由な働き方と生きやすい社会を模索する日々を綴ります。

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